
グランツーリスモ7の車種解説を書いていると、まれに実車オーナーの方から声をかけていただくことがあります。
今回はそのやり取りから実現した、当ブログ初めての試みをお届けします。
TVRタスカンSとルノー クリオV6。両方の実車を所有し、グランツーリスモを1から7までやり込んできた読者の方に、メールでインタビューをさせていただきました。
ハンドルネームはShotgunさんです。
ご本人のご希望により、実名・住所・勤務先は伏せてお届けします。

記事の誤りから始まった
この取材が始まったきっかけは、当ブログのTVRタスカンSの記事にありました。
記事では「タスカンの室内ドアは、アルミのレバーを捻って開ける」と書いていましたが、これは誤りでした。
正しくはオーディオ横にあるボタンを押す方式で、アルミレバーを捻るのは同じTVRでも別モデルのキミーラです。
この誤りを、実際にタスカンSを所有するShotgunさんがメールでご指摘くださいました。
記事はすでに訂正済みです。
ただ、それだけでは終わりませんでした。
メールのやり取りは4往復に発展し、写真10枚をご提供いただき、最終的に「記事化してもよい」というご了承までいただくことになったのです。


英国車を愛した人生
Shotgunさんが現在所有しているのは、日本に1台しかない純正カスケードインディゴのTVRタスカンSです。
名古屋ナンバーのまま、ホイール以外はすべてノーマルを保っているとのことです。
過去にはルノー クリオV6 Ph1を2台乗り継いだという経歴もお持ちです。
1台目は空輸された日本1号車、2台目は日本に2台しかないMars Redだったといいます。
クリオV6のオーナーズクラブでは会長も務められました。
ほかにも外観IIIのランサーエボリューションII(走行会で負け知らずだったそうです)、ジャガーXJ-6、初代アルトワークスと、車歴は多彩です。


そして、グランツーリスモは1から7までかなりやり込んでいるとのことです。
プレイ環境は、レカロシート・ハンドルコントローラー・シフターをそろえた本格的なドライビングセットです。
ご本人いわく「普通の会社の社員でしたが現在シニアです。大笑」。
免許返納後もゲームでクルマを楽しむという、このブログが目指している姿そのものの方に、お話をうかがえることになりました。
GT7と実車、何が違う
まずうかがったのは、一番シンプルで、一番答えづらい質問です。
GT7と実車で、一番違うと感じるところはどこでしょうか。
正直、全部違うというのが自分の答えです。やはりGを体で感じられないので。でもシミュレータとしては車ごとの特性を掴んで非常に良くできているとは思います。
誇張のない、誠実な答えです。
Gという、体で受け止めるしかない感覚は、どんなに映像と音が精巧でも画面の中では再現できません。
その前提を置いたうえで、シミュレータとしての完成度は評価する。
この距離感が、以降の答えすべての土台になっていました。
作り込みと走行バランス
では逆に、よく再現できていると感じる部分はどこでしょうか。
一番はモデリングの素晴らしさです。細かな部品まで精密に作り込まれていて、GT7では皮の質感も上がった。アップにしてもネジ1本まで作り込まれていて驚きます。PSVR2で見ると実車かと思うほどです。ぜひVRで車内やエンジンをご覧になることをお勧めします。
実車のオーナーが「実車かと思うほど」と評するモデリングです。
GT7をPSVR2で遊んだことがない方は、この機会に一度試してみる価値がありそうです。
ちなみにShotgunさんはリプレイやフォトモードもお好きで、「特に4Kになってからフォトモードはもう実写か解らないほど美しくなった」とも話してくださいました。
もう一つ挙げてくださったのが、走行バランスです。
後は車の走行バランス。FRのタスカン、MRのクリオV6はスピンさせると本物そっくりに重心点を中心にスピンします。クリオV6のときは自分がチューニングした実車と同じセッティングにしたら、すごく走りやすくなりました。

「実車と同じセッティングにしたら走りやすくなった」という一言は、さらりと語られていますが、実は重要な意味を持っています。
ゲームの挙動が、実車のセッティング変更の方向性と一致していたということだからです。
この話は、次の章でさらに掘り下げていただきました。
GT7は実車の実験室
今回の取材でもっとも印象に残ったのが、この話です。
Shotgunさんは、GT7を実車のセッティング検証に使っているというのです。
キャンバー、キャスター、トー、バネレート、ダンパー。実際ショップでテストやったらとんでもない金額になっちゃいます。ショップに頼らず試しに楽しめるって良いです。

足まわりのセッティングは、本来なら実車を工場やサーキットへ持ち込み、数値を変えては走らせ、また変えては走らせるという、時間もお金もかかる作業です。
それをGT7の中で先に試せる。
この発想を実際に日々の趣味として実践している方にお会いしたのは、当ブログでも初めてのことでした。
V6、タスカンなどレア車は特にありがたい。
特に希少な車ほど、実車での試行錯誤は現実的ではありません。
部品の取り寄せにも時間がかかりますし、失敗すれば取り返しのつかない出費にもなりかねないからです。
ゲームの中で当たりをつけてから、実車で仕上げる。
この使い方こそ、ゲームと実車の両方を知っている人だけがたどり着ける結論だと感じました。
Shotgunさんのドライビングセットは、ハンドルコントローラーとレカロシート、シフターを組み合わせた本格的な構成です。
こうした機材があってこそ、単なる「速さ比べ」ではなく「セッティングの検証」という使い方にまで踏み込めるのだと思います。
Speed Sixの咆哮
タスカンSの心臓部、Speed Sixエンジンの音についてもうかがいました。
流石にサンプリングで音を録っているので音は非常にクオリティが高いです。ただ(実車は)もっと暴力的な音ですが。w

「w」の一文字に、実車の音を知っている人ならではの余裕がにじんでいます。
サンプリング音源としての完成度は認めつつ、それでも本物の暴力性には及ばない。
ゲームと実車の両方に触れているからこそ言える、ちょうどいい温度の評価です。
所有の現実|プラグ被り
ABSもエアバッグもないタスカンSで、実際に気を遣う場面はどこでしょうか。
タスカンはツインプレート(クラッチ)と低速トルクが凄く細いので発進に気を使います。エンストは怖いです。かなりの確率でプラグが被って掛からなくなります。
逆に走り出せば高回転で回さない限りトルクが低いので怖くないとのことです(回せば凶暴ですが)。
この「プラグが被る」という現象については、取材の後半で技術的な理由も教えていただきました。
エアフロの無いエンジン制御が大きな原因(長所でもあります)。
インジェクション車なのにカブるという、一見矛盾した現象の裏側には、エアフロセンサーを持たない設計思想がありました。
そしてもう一つ、気を遣う場面があります。
雨の日は車が軽くタイヤが太いのでハイドロを起こしやすく怖いです。雨も漏れますし乗らないのが一番です。
軽量なボディと太いタイヤという、速さのための組み合わせが、雨の日には裏目に出る。
そのうえ雨漏りまでする。
スペック表には決して書かれない、所有者だけが知る現実です。
「絶好調」は禁句です
Shotgunさんが所属するTVRCCJ(TVRのクラブ)では、毎年6月に全国のオーナーが長野・車山高原に集まるそうです。
そこには、ちょっとした言い伝えがあるといいます。
クルマの調子を聞かれて「絶好調」と答えた人は、ほぼ100%近々に故障する。
だから皆、「まあまあ」と答えるのだそうです。
ご本人いわく「冗談の様なほんとの話」。
笑い話のようでいて、これほど旧い英国車を所有するということの本質を短く言い表した逸話も、なかなかありません。
絶好調だと油断した瞬間に、車は機嫌を損ねる。
だからこそ「まあまあ」と言い続けながら、長く付き合っていく。
そんな距離感が、TVRのオーナーたちの間には根づいているようです。
クリオV6の素顔
タスカンSと並行してうかがったのが、Shotgunさんが2台乗り継いだクリオV6についてです。
いわばGT。決してスーパースポーツではない。

走行会では「凄く速そう!」と思われるそうですが、そんなタイムは出ません、とのことです(大笑)。
その理由も具体的に教えてくださいました。
フロントタイヤを太くしたためステア舵角が取れず、最小回転半径6.5mと中型トラック並み。

スーパーなどのループスロープで油断すると切り返しとなり、下手くそに見えるそうです(大笑)。
ご本人の表現を借りれば「サーキットで速そうに見えて速くない、小回りしそうで全くしない」。
「この振れ幅って中々無い」とも話してくださいました。
それでもエアコンも良く効き、ツーリングでは楽しい車だったといいます。
対して、タスカンSは違う性格の車だとご本人は語ります。
フロントミッドシップでバランスも最高、パワーウェイトレシオも素晴らしいので鬼加速で楽しい、本当のスーパースポーツ。
ただし今は、前走者の飛石が怖くてサーキットへ行くことはないそうです。
FRPのボディは塗装がペラっと剥げてしまうといいます。
速さを楽しむ車と、キャラクターの濃さを楽しむ車。
2台をどちらも所有してきたからこそ語れる、はっきりとした対比です。
ゲームで身につくもの
最後に、ゲームと実車それぞれの効用と限界についてうかがいました。
最大の収穫は左足ブレーキを覚えたことですね。身につかない事はクラッシュした時のダメージですかね。w
操作の技術は、ゲームでも確かに身につく。
けれど、クラッシュの痛みや恐怖だけは、画面の中では絶対に学べない。
この線引きも、実車とゲームの両方を知っている人ならではの答えでした。
スキが1番です
最後に、シニアになってもクルマを楽しみ続けるコツを尋ねました。
やっぱりスキが1番です♪ だんだん体力も視力も落ちます。ゲームでも長時間は精神力、視力が辛くなって来ました。でもスキなので続けてます。
Shotgunさんは後日、この言葉をこう重ねてくださいました。
結局そこに尽きますよね。好奇心と情熱があれば歳を取っても大丈夫。
実車を1台減らしても、ゲームに持ち替えても、好きという気持ちが続く限り、クルマとの付き合いは終わりません。
それは、免許を返納したあともゲームでクルマを楽しみ続けてほしいという、当ブログの願いそのものでもあります。
Shotgunさん、貴重なお話と写真を、本当にありがとうございました。
秋には対面での取材も予定しています。
実現した際には、あらためてこのブログでお伝えしたいと思います。








